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スペシャリストコラム

“レス”にはできないラベルの将来性

大野 高志

大野 高志
ラベル新聞社 編集部

『ラベル新聞』は1969年、ラベル業界唯一の専門紙として創刊しました。シール・ステッカーなどの粘着ラベル、シュリンク・インモールド・ラップラウンドなどの非粘着ラベル、RFID*1・NFC*2技術を活用したスマートラベルといった領域をカバーし、技術・素材・加工資機材・製品・周辺機器・システム・市場などラベルビジネスに関わるすべての皆さまに役立つニュースをお届けします。
筆者はデジタル印刷分野を中心に取材活動を行い、海外展示会などにも出没しています。

日本国内では新型コロナウイルス感染症に関する各種制限が緩和され、私も徐々に対面方式の取材に出かける機会が戻ってきました。ある日、打ち合わせを兼ねて飲食店に入ると、メニューの一部には「原材料の確保が困難なため当面の間は提供を中止します」との訂正シールが。2022年下期はニューノーマルの時代に向けて経済活動を再開へ、と意気込んでいたところにサプライチェーンの混乱と部品の欠品、原材料や輸送費の高騰なども重なり、思わぬブレーキがかかる格好となってしまいました。

印刷業界に関して言えば、DX推進に伴うペーパーレス、飲料分野でみられるラベルレス、脱・廃フィルムといったトレンドにも直面しています。さらにラベル業界では、一部商品で直接印刷やレーザー刻印にとって代わられる事例も出てきていますし、日本国内に限った事象ですが飲料メーカー各社がこぞってラベルレス商品を発売しています。将来に目を向けると、シール・ラベル、ステッカーといった粘着製品がなくなる日は来るのでしょうか。

当社は、ラベル印刷会社の動向や粘着紙の出荷量などを調査してラベル業界の市況感を分析・公表しています。ものづくり産業にとって逆風が吹く状況にあっても、ラベルは今後も社会に必要不可欠なアプリケーションであり続け、当業界は成長していくものと予測しています。ラベルは古くからワインをはじめとした飲食物などの成分を表したり、シールは“封じる”ものとして封かんの役割を担ったり、“くっつくもの”の意味を持つステッカーは装飾用途として、面積は小さいながらも大きな存在感を発揮してきました。実体として意匠性や機能性を伴い、活用シーン・ロット・納期に対し柔軟な製造体制によって提供される粘着製品は、間違いなく“レス”にはできない、なくなることのない印刷物です。

ブランド保護やオンデマンドな供給体制といったラベルの魅力の一側面は、これまでのコラムでも紹介してきました。

DX推進支える新たな需要開拓へ

近年は新たに、RFIDラベルに代表される電子タグとしての機能を備えた粘着製品も登場しています。「適切な管理体制・流通経路に則っているのか」「模倣品・産地偽装ではないか」といった消費者の不安を解消するために、日本酒のトレーサビリティー確保、医薬品の真がん判定などで採用実績も増加傾向に。DX推進によってペーパーレス化が進行している一方、迅速・正確な在庫管理にRFIDラベルが活躍しています。電子の世界のデータとリアルな世界のモノを結び付けて情物一致の徹底などを支援するのに、ラベルは非常に有用なツールなのです。身近なところではアパレル店で無人レジの会計をスムーズに行うため衣料品に電子タグが取り付けられていますし、経済産業省らが主導する「コンビニ電子タグ1,000億枚宣言」「ドラッグストアスマート化宣言」といった取り組みも後押しして、活用シーンは一層拡大していくことでしょう。複数回にわたる実証実験によって電子タグの書き込み・読み込みを含む運用ノウハウが蓄積されてきており、タグ自体の低廉化も進行。印刷会社は基材サプライヤーやブランドオーナーとともに、ソリューション構築に注力しています。

物流倉庫をはじめ各所で活躍する搬送ロボットにも、粘着製品が関係しています。ロボットの進行方向を指示する2次元コードを印字したステッカーを床面に貼付し、その上をロボットが通過する際にコードを読み込むといった仕組みです。移動経路をプログラミングするよりもコストを抑えて導入できるとあって注目されています。

粘着製品は、DXの進路を整える役割を担っているのです。

粘着製品そのものの価値認知も

なくすことのできない粘着製品として、マスキングテープをはじめとしたBtoC商品も挙げられます。テープやステッカー自体に価値が認められているため、電子タグ同様、電子化は難しい領域です。クリエーターがコロナ禍でスモールビジネスを始めてステッカーなどを小ロットで製造する事例のほか、ラベル印刷会社が受注型体質からの脱却を目指し自社ブランドの商品開発に取り組むケースも増加しています。

後者の場合、自社で培ったノウハウを活用し、多層構造や複雑な抜き加工、微細な箔を施す、ガラスや木面にも貼れて剥がれない/のり残りしないでキレイに剥がせる、抗菌・抗ウイルス効果を持つといった技術の光る逸品が、さまざまな印刷会社から上市されています。ECサイトの隆盛によって、印刷会社によるBtoC商品の販路開拓・知名度向上を助ける環境が整い、今後、実地のイベントが再開されればさらに販売チャネル拡大が図れるものと期待しています。ユーザー側も、アーティストがシールやステッカーを画材として活用したり、インフルエンサーが商品をSNS上で取り上げたり、粘着製品のファン層が界隈を盛り立ててくれているのです。

ラベルは紙やフィルムといった表面基材に、被着対象ごとに合わせた粘着剤、抜きやラミネートなど各種加工、どのような情報・デザインを印刷するか、さらには電子タグに代表されるプラスアルファーの機能性を付与するといった組み合わせによって多彩な魅力を発揮します。国際情勢の急変やSDGs・環境関連のニーズへの対応、短期化する商品ライフサイクルへの順応など、先行き不透明で変動の激しい状況下でこそ、ラベルの柔軟性は生きてきます。食品・飲料・酒類・物流・電気機器・日用品・化粧品・医薬品・小売・工業製品などありとあらゆる分野を支えるラベルの魅力のほんの一端に過ぎませんが、コラムで紹介できたように思います。

本稿の作成を終え、欠品していたメニューを求めて余所の飲食店に入ろうとしたところ、ガラス戸には「時短営業中につき早仕舞い」を知らせる再剝離ステッカーが。即応性の高い粘着製品の効果を味わいながら、いち早く正常な社会情勢に戻ることを願っています。

*1 ^Radio-Frequency Identification の略。無線を用いた自動認識技術の一種で、タグ(荷札)と呼ばれる小さなチップを用いて、様々なモノを識別・管理するシステムのことである。(参考文献:weblio辞書)
*2 ^Near Field Communicationの略。最長十数cm程度までの至近距離で無線通信を行う技術。(参考文献:IT用語辞典)

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