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スペシャリストコラム

玩具の加飾―その種類と展望

おりも みか

おりも みか
製造業ライター

前職の国内大手玩具メーカーでは、生産技術と品質管理を担当。
主に中国・日本国内にて、プラスチック製玩具、雑貨、遊戯機器などの開発・製造管理や、安全規格に関する試験・評価を行う。
中国工場におけるセル生産ラインの新規立ち上げを担当。CPE、CPE-ME(生産技術者マネジメント資格)を取得している。
現在は製造業を中心とした技術系ライターとして、企業のホームページ、WEBメディアなどで解説ページやコラムの執筆を行っている。

玩具の魅力の一つに、多彩なデザインがあります。
さまざまな色や模様、キャラクターだけでなく、ラメやメタリックなどの装飾は、玩具にとってとても重要な要素です。キャラクターによっては、求める色を再現するために何度も試作と監修を繰り返すこともありますし、塗装のクオリティは商品の評価に直結します。開発・製造者にとって、玩具の加飾はとても難しいものです。

1.塗装

玩具の加飾にはさまざまな種類がありますが、最も一般的なのは塗装です。
パーツの一面を全て塗装することを丸吹き塗装と言います。

丸吹き塗装 1
丸吹き塗装2

機械塗装をすることもありますが、作業者がスプレーガンを用いて手吹きするのが一般的です。また、塗装そのものは機械でも、パーツを治具に並べるのは人の手で行います。玩具は一度の生産数が多くないこともあり、塗装はほとんどの工程を人の手で行っています。

パーツの一部分を塗装したい場合は、マスク塗装を行います。

マスク塗装1
マスク塗装 2

塗りたい箇所に穴の開いているマスク治具にパーツを嵌め、スプレーガンで塗装します。マスク治具の精度が低いときれいに塗装できませんし、すぐインクだらけになってしまうので、適切なタイミングで洗浄しなくてはなりません。作業者の技術だけでなく、適正な管理が必要です。

塗装は基本的な加飾の手法ですが、年々コストが上がっています。日本国内の塗装コストは、ほとんど玩具では使用できないほどに上昇しており、海外でも同様に年々上昇傾向にあります。
また、一度に一色しかできないため、色数が増える度に工程やコストが増加します。さらに環境負荷が高く、特別な設備も必要なため、新規参入が難しいという面もあります。国内でも海外でも、コストとクオリティに見合った工場を探すのは容易ではありません。

塗装はカラーの組み合わせも無限で美しい仕上がりになりますが、はみ出しなくきれいに塗装するためには見切り線と呼ばれる溝を彫る必要があり、設計の段階から考慮しておかなくてはなりません。

2.印刷

塗装と合わせて行われることが多いのがタンポ(パッド)印刷です。
タンポ印刷とは、印刷したい図案の形にエッチング加工した金属版(タンポ版)にインクを置き、それをシリコン製のパッドに付着させ、パーツに押し当てることでスタンプのように印刷する方法です。フィギュアの目など、細かい部分の彩色に適します。治具へのパーツの取り付けや取り外しは作業者が行いますが、印刷自体は機械が行います。これも塗装と同じように一色ずつ行います。タンポ印刷のメリットとしては、パッドが柔らかいので、多少の凹凸や球面にも対応できることです。細かい文字などもきれいに印刷することができます。

その他、印刷にはシルクスクリーンや水転写、ホットスタンプなどがあります。印刷方法は多様ですが、どれもメリットやデメリットがあるため、適切な方法を選択することが大切です。

パッド印刷

3.メッキ

玩具ではメッキもよく使用されます。メッキにはガラメッキや電解メッキなどさまざまな種類がありますが、玩具でよく用いられるのは真空蒸着です。蒸着をした上にクリアカラーを塗装することでさまざまなメタリックカラーを再現することもできます。近年では大人向けの高品質な玩具が発売されており、子ども向けでは価格、安全性の点で難しいメッキ加工を、付加価値をつける目的で行うこともあります。

4.新しい加飾

近年用いられるようになった加飾の手法に、UVインクを使ったインクジェットプリントがあります。これは紙に印刷するのと同様に、プラスチックにインクジェット印刷をして、UV光で硬化させるものです。

UV印刷1
UVプリント2

インクジェット印刷のメリットとしては、多色の印刷を一工程で行うことができること、オペレーションを行う作業者に特別な技術が必要ないこと、機械の導入ができれば特別な設備や広い空間を必要としないことなどが挙げられます。
その他、試作などの小ロット生産に向いており、デザインの変更にも即時に対応できるため、より小ロット多品目化していく傾向にある玩具には適していると言えます。

デメリットとしては、ドットで印刷をするため緻密なイラストなどは再現性が低かったり、曲面などへの印刷時にはインクが散ってしまうことがあります。
また現状では仕上がりがマットな印象で、塗装に比べて質感が劣る場合もあります。ですがどんどん新しい技術が開発されている分野なので、いずれはこれらも解消されるでしょう。

インクジェットプリンターは、一度に複数のパーツをセットして印刷することができます。一回の印刷で、できるだけ数多くのパーツに印刷する方が全体の作業効率が上がるため、大きなパーツ、大きな範囲への印刷よりは、たくさんの小さなパーツに細かな印刷を施す際に使用されることが多いようです。また塗装と合わせて行われることもあります。

まとめ

今や玩具の加飾は「きれいで当たり前」の世界です。塗装や印刷のミスは商品の評価やクレームに直結します。お客様相談センターには、不良とも言えない程度のちょっとしたはみ出しなどへの問い合わせが毎日のように届いており、消費者の要求レベルはどんどん上がっていると感じます。どこまで対応するべきなのか、できるのか、開発・製造者は頭を悩ませています。適切な方法を選択すること、新しい技術を知り、取り入れていくことが大切です。

取材協力
Tam’s Industrial Co., Ltd.
http://www.tams.com.hk/

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