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スペシャリストコラム

パッケージデザイナーが実証する、プロトタイピングの威力

VICKI STRULL

VICKI STRULL

パッケージのデザイナー、戦略家、講演者として、一流ブランドや新進ブランドに、オプティチャネル・マーケティング戦略におけるパッケージ印刷の活用方法をアドバイスしています。
また、印刷サービスプロバイダーやブランドオーナーに、新たな収益源を生み出すためのコンサルティングを行い、その戦略を世界各地のデザイン、パッケージ、印刷関連のイベントで講演しています。vickistrull.comまたは、Linked Inで@vickistrullをフォローしてパッケージの最新情報をチェックしてみてください。

思いついたデザインアイデアや、自分が手掛けた印刷プロジェクトに「お試し」オプションがあれば、素晴らしいと思いませんか?試作(プロトタイピング)の目的は、まさにそこにあります。プロトタイピングの神髄は、デザイナーやブランドが、コンセプトづくりからデザインを決定するプロセスの中で、3次元(3D)で効果的にアイデアを吟味できることです。

パッケージデザイナーが、さまざまな仕上げや加工、五感に訴える表現手法を模索し、それぞれがどれほど効果的なのかを試していくためには、プロトタイピングが不可欠です。あるデザインに、手触りの心地よさを訴求する仕上げを施すと、実際にどのように感じるのか?ロゴに施すか、あるいは商品名のほうか、どちらがより効果的か?ある紙と別の紙では、それぞれ印刷結果がどのように変化するのか?このエンボスはエッジを立たせると割れてしまうだろうか、それとも斜角で仕上げたほうが良いだろうか?メタリックカラーを使わずに高級感を出すにはどうすればよいだろうか?疑問は尽きませんし、可能性も無限大です。

プロトタイピングを行うことで、ブランドはお客様の目をどこに引くのか、印刷や後加工にかけられる予算で最高の「リターン」を得るには、どこに仕掛けるのがいいかを見極めることができます。パッケージには、買い物に来たお客様を惹きつける魅力があり、Eコマースのバイヤーにとっては、ブランドへの信頼と信用を感じさせる開封体験が不可欠です。

今回、二次包装に特化したパッケージ開発とプロトタイピングで高い評価を得ているCog社の技術責任者、Lindsey Frimming(リンジー・フリミング)氏とプロトタイピングについてアクティブな議論を交わしました。Cogは、パッケージ製作工程でプロトタイピングが必要なあらゆるタイミングでクライアントと密に関わり、消費者を惹きつけ、意図された体験を演出し、最終的に購買につながる革新的なパッケージの開発を支援しています。

「高級フレグランスであれ、猫砂であれ、棚で目立たなければお客様はどんどん先に進んでしまいます」とリンジーは言います。これは、消費者が以前のようにお店の通路で長居をしなくなったCOVIDの時代には特に重要なことです。

パッケージプロトタイプの利点トップ3

1. 手触り

パッケージングデザイナーにとって、プロトタイピングの最大のメリットは「触れられる」ことです。デザインを物理的に体感することは、画面上での確認とはまったく違う感覚です。PDF、Zoom、LinkedInなど、今私たちはスクリーン越しに何かをすることがとても多くなり、見るだけでなく、手にしたときに感じる質感の違いを忘れがちです。手に取ることで、私たちはその違いに気づき、信頼感を得ることができるのです。

私がデザインを引き受けたクライアントは、プロトタイプを見たときに驚くことがよくあります。画面上でのデザイン確認ですでにそのデザインに満足しているにもかかわらず、実際に手にしたときの迫力は予想以上。Cogにプロトタイプをお願いする場合、2段階でプロトタイプを示してもらうことが多いです。1つ目はパッケージの構造、形状、材質、2つ目は仕上げ加工で、滑らかさやテクスチャ、ニス引きなど、質感がどう変化するかを探ります。また、エンボスやデボスのエッジ部分や、メタリック調の再現の仕方による見え方の違いなどを確認することもあります。「手触りがいかに重要であるかは、店頭を見れば一目瞭然です。質感に欠く平滑な紙を使ったパッケージや、シンプルなラベル紙が使われているケースはもうほとんど見かけませんから」とリンジーは付け加えます。

この質感による心地よい感覚が、プロトタイピングの真骨頂です。ブランドは、2Dの画面を見るだけでは、その感覚がもたらす価値を認識することはできません。説明することはできます。画面上でデザインを見ながら、高級紙のサンプルを渡して、触ってもらうこともできます。しかし、同じではありません。「付加することでコストが上がるコンセプトや触感のような要素を訴求したい場合、購買担当者や消費者パネルがそれを物理的に体感できるということが極めて重要です。どのブランドも、余分に費やしたコストが報われるようにしたいのです」とリンジーは説明します。

2. 体験

それは、プロトタイピングのもうひとつの利点である「体験」につながります。ソーシャルメディア上のインフルエンサーや、ブランドの熱心なフォロワーが存在するこの時代、優秀なパッケージとは、買い物客が開封して商品を取り出すときに一風変わった素敵な体験をさせてくれるものです。内側に印刷が施されているのか?秘密の引き出しは?パッケージは別の用途に使用できますか?(例えば、猫や子供がAmazonの箱で遊んでいる風景を想像してみてください!)高級感があるか?購入者がオンラインで注文したときに期待したものと一致しているか?その商品を勧めたいと思うか?それとも、単純にその見た目の美しさで「この商品試してしてみたい!」と思わせるに余りあるものでしょうか。プロトタイピングをデザイン決めの過程で行わなければ、「完璧な顧客体験」を演出するのは本当に難しいことなのです。さらに、本生産に進む際、選択した素材や仕上げ加工に対して、ブランドがどれだけ自信を持って臨めるかを考えてみてください。何百ドルも、場合によっては何千ドルもかかるプロトタイピングですが、ブランドにとって秘密兵器なのです。

3. 見栄え

そして最後に、プロトタイプにはもちろん視覚的な利点があります。今どきのデジタルプルーフソフトウェアは、デザイン校正用に美しいグラフィックやモックアップを画面上で生成できます。しかし、リンジーは言います。「例えば、PDFファイル上で再現された、箔をイメージした光の反射を想像してみてください。シミュレーションソフトで光源の当たり具合を調整しても、その箔押しがのったテキストの実際の視認性を見極めるのは難しいのです。実際には箔の光沢が暗すぎたら?変数が多すぎるんです。箔のような特殊印刷は、ディスプレイ上では再現できません。また、プレミアムな仕上げに特別な予算をかける価値があるのなら、棚でのインパクトと利益を両立させるために、どこまでコストをかけるか、あるいはかけないのか、試してみることにも価値があることは間違いありません。」

ブランドがプロトタイプを選択する場合、一般的には1つか2つのデザインコンセプトを、構造、素材、仕上げ加工のバリエーションで検討することになります。このようなプロセスは、デザイナーやブランドが、より安全で一般的な選択の殻を破り、ユニークなアプローチやテクニックを模索するのに役立ちます。昨年、Cogと共同で行ったオリーブオイルのラベル製作事例は、このことを物語っています。このクライアントは、以前から高級感を演出するためにメタリックカラーを使用していました。しかし、環境に配慮したサプライチェーンも考慮し、メタリック箔やアルミ蒸着紙・フィルムを使わずに高級感を演出する、その両方を実現する選択肢を探りました。

パターン1
ラベル用コート紙にCMYK + 箔押し

パターン2
ラベル用コート紙にCMYK +花弁の間にシルバー + エンボス

パターン3
ラベル用コート紙にCMYK + 花弁の間にエンボス箔

パターン4
ラベル用コート紙にCMYK + 花弁とロゴにエンボス

パターン5
ラベル用ノンコート紙にCMYK (特殊効果なし)

パターン6
ラベル用ノンコート紙にCMYK + 花弁にエンボス

(出典: Guy Welch Photography, Atlanta, GA U.S.A.)

可能性の追求

Cogは、著名な男性用パーソナルケア商品の光り輝くロゴイメージを試作提案しました。「ブランドロゴと新しい含有成分のイメージを強調する色々な手法を検討して欲しいという依頼を受けたとき、初めは、いくつかの共通部分に光沢とマットのニスを塗り、それを全商品に展開することを考えました」とリンジーは語ります。「でも、クライアントからはもっと自由な発想を試してくれていいと言ってもらえたのです。そこで、7つの商品それぞれに、デザインチームが思いもよらなかったような、クールでユニークな触感のニス加工を施しました。どのラインナップにもそれぞれ違う触感のパターンを持たせました。結果的に、新商品はお店の棚で輝きをみせました。また、提案した表現が、本生産時に印刷機で確実に再現されるように、印刷会社と入念に打ち合わせを行いました。印刷本機での仕上がりが把握できればゴールは間近。『できたらいいな』が現実に美しいパッケージとして世に生み出され、結果として棚での存在感や消費者の反応が最高潮に達するのです」。

もしこのブランドが、提案された特殊印刷表現の見た目や感触を確認することができず、7つのラインナップにそれぞれどの触感のテクスチャを施すか、というテスト印刷を印刷本機で行っていたとしたらと想像してください。なんという時間とコストを費やしていたことでしょう。このケースでは、プロトタイプが手元にあったため、印刷会社での本機によるトライアルはわずか1日で完了できました。
「参考までに付け加えておくと、これがなかったら、このケースのボリュームだと、おそらく本機でのトライアルに3日はかかっていたでしょう。プロトタイプは、コストと時間の節約に役立つだけでなく、ブランドが考えもしなかった新しい印刷表現を模索することも可能にします。そして、最終的な印刷結果が分からないという潜在的なフラストレーションや不安も解消してくれるのです」。

リンジーは、蒸留酒、ワイン、その他の飲料に自然な香りと冷たさを与える植物性の氷を提供する新しいブランド、ミキシクル社のデザイン試作事例についても話してくれました。ミキシクルは、商品化に向けてパッケージのデザインを検討するべく、Cogの門をたたきました。

ミキシクルのパッケージ
(出典: Twin Spire Photography)

「小売店の冷凍ジュース売り場で、商品を適切に収納でき、ディスプレイケースとしても機能し、家庭の冷凍庫にもうまく収まるような独自のカートン構造を実現したいと依頼をいただきました。また、バーや酒販店での取り扱いがないのはもったいないので、その点も考慮してデザインしました」。なかなかの要望ですね。

ミキシクル用に、紙器構造をプロトタイプする
(出典: ©2022 Cog, LLC)

理解を得るための工夫

ミキシクルの箱には、いくつかのユニークなチャレンジ(チャンス!)がありました。画像、使い方、規格情報を入れる十分なスペースが必要だったのです。さらに、この商品が何であるか、そしてそのパッケージによって、商品がどのように家で収納されるかを、買い物客にすばやく理解してもらう必要がありました。「使用時に数個のキューブを取り出し、残りのキューブをパッケージごと冷凍庫に戻すというアイデアです」と、リンジーは言います。

「私たちの構造デザイナーであるDavid Brown(デヴィッド・ブラウン)は、ブランドだけでなく、印刷会社とも協力して、小売店やオンラインで販売される素晴らしい紙器パッケージを作り上げ、結果的に商品は大手小売チェーンに採用されました。また、この箱にはミシン目が入っており、ブランドはレシピを追加し、消費者はレシピカードとして保管することができます。この紙器は、基本的に飲み物を提供する以外はなんでもできちゃうんじゃないかしら」とリンジーは笑いました。

プロトタイプを製作しない場合のリスクとは?

パッケージのプロトタイプ製作には、「確認」の意味だけでなく、もしこのようなデザインにしたらどうなるだろう?という「仮説の実証」も意味付けすると良いでしょう。プロトタイピングを行わないと、さまざまなことがうまく進まなくなる可能性があります。例えば、デザイナーとブランドが思い描いた印刷品質が実現されず、仕上げ(箔など)の効果が発揮されないなんてことも。あるいは、抜型が機能しないかもしれません。しかし、リンジーは断言します。本当のギャンブルは、「ブランドが消費者の感覚にしっかりと訴求し、最終的に商品棚で選ばれるための機会を得られないリスク」だと。

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