VICKI STRULL
パッケージのデザイナー、戦略家、講演者として、一流ブランドや新進ブランドに、オプティチャネル・マーケティング戦略におけるパッケージ印刷の活用方法をアドバイスしています。
また、印刷サービスプロバイダーやブランドオーナーに、新たな収益源を生み出すためのコンサルティングを行い、その戦略を世界各地のデザイン、パッケージ、印刷関連のイベントで講演しています。vickistrull.comまたは、Linked Inで@vickistrullをフォローしてパッケージの最新情報をチェックしてみてください。
選択肢があるということは、素晴らしくもあり、複雑でもあります。2つの選択肢しか与えられていないのであれば、選ぶのは簡単です。
黒のペンか青のペン、どちらにされますか？
簡単な選択ですね。私なら青のペンを選びます。
しかし、もしいろいろな種類のペンを目の前に並べられたらどうでしょう？さまざまな色、太字や細字、ゲルインクや繰り出し式、握り心地の良いグリップ......。ペンのようなシンプルなものでも、なんと選択肢の多いことでしょう。
年々増え続ける商品と、多種多様な情報にさらされた結果衰える一方の私たちの集中力は、ブランドにとっては大きな課題です。最近、歯磨き粉の売り場に行かれたことはありますか？練り歯磨き、ジェル、知覚過敏、ホワイトニング、歯石対策......それは、長い口腔ケア用品売場の通路のたった一つの棚に過ぎません。
私たちの集中力がますます低下するなか、各ブランドが店頭やオンラインで消費者の目を惹きつけ、商品を手に取ってもらうまでに与えられた時間はわずか8秒*¹です。それに加えて、豊富な選択肢があるため、マーケティング担当者やデザイナーは大きな課題に直面しています。
店頭やオンラインで何百もの商品を見ている消費者は、最終的になぜある特定のブランドを選ぶのでしょうか？答えは、8秒以内にインパクトを与えるパッケージデザインとブランディングです。
ブランドはパッケージなしでは成立しない
さて、もう少し楽しい題材、チョコレートの話をしましょう。
パッケージがなかったら、あなたはどのようにして特定の板チョコを選び、そのブランドのファンになり得るでしょうか？
もし、スーパーのレジに並んでいるミルクチョコレートをすべて開封し、テーブルの上に並べたとしたら、その多くが同じように見えてしまうでしょう。ほとんど同じ長方形の形、ミディアムブラウンの色、魅惑的な甘い香り、官能的なマーブル状のテクスチャ。
どうやってその中の一つを選びますか？パッケージがなければ、これらの商品は、品質、味、産地、原材料、さらにはブランドの価値など、何が特別なのかを示す手がかりや指標がほとんどなくなってしまいます。そうすると、もうほとんど推測ゲームです。運よく自分にぴったりの板チョコを選べたとしても、最初に選んだのがどれだったのか分からなければ、次にどうやって同じものを購入しましょうか？
つまり、ブランドはパッケージなしでは成立しない、ということです。パッケージは消費者の注意を引き、購入する商品の情報を伝えます。これは、フェアトレード農園で生産された、甘さと塩分のバランスがちょうどよく、リッチでクリーミーな素晴らしいチョコレートなのだと。消費者がこのチョコレートに満足すれば、パッケージのおかげで、そのチョコレートを見つけて再び購入することができます。
あなたの商品がいかに素晴らしいものであっても、そのパッケージがお客様の目に留まり、手にして、購入し、試してもらうきっかけがなければ、その素晴らしさを誰も知ることができません。では、競争が激化する市場でパッケージを際立たせるにはどうすればよいのでしょうか？
それは、顧客体験に焦点を当て、お客様に興味を持ってもらうことです。
所有権、知覚価値、触覚の力
触れるということには力があります。長い間離れていた大切な人を思わず抱きしめたくなるように、私たちはその力を無意識に認識しているのです。商品を手に取り、その重さや質感を感じ、品質を体感できれば、その商品に対する信頼度は高まります。また、商品に直接手を触れることは、私たちの潜在意識レベルにも影響をもたらします。
実際に手に取った商品ほど、購入する確率が上がるということをご存知でしょうか？そして、それだけでなく、一度手に触れたものにはより大きな価値を感じ、対価としてより高い金額を払ってもよいという気持ちになります。これは、"授かり効果 "と呼ばれています。誰かが物を手に取ると、その物に所有権を感じ始め、潜在意識レベルでその物に付加価値を感じるようになり、それがその人の、その商品に対して抱く価値、すなわち知覚価値となるのです。お客様に手を伸ばして商品に触れてもらえるかどうかは、その商品を購入してもらうための重要なカギとなります。
では、どうすれば人の指をうずうずさせることができるのでしょうか？思わず手に取りたくなるような魅力的なパッケージにするにはどうすればいいのでしょうか？
- 高品質な紙やフィルム
- 触覚印刷
- テクスチャ印刷
- デコレーション
- レーザー加工
- 箔押し加工
- デジタル箔転写
- ホログラム装飾
- メタリック印刷
- エンボス・デボス加工
- 魅力的なフィルムラミネート
- UVコーティング
上記のような加飾や特殊印刷手法はその一つの答えと言えます。
消費者を惹きつけるカスタマイゼーション
カスタマイズは、消費者を魅了する最も効果的な手段の一つです。
マーベル社の映画は、その豊富なキャラクターで高い人気を博しています。ここでは仮に、マーベルがアベンジャーズの映画を宣伝するケースを想定し、カスタマイズのさまざまな方法（バージョニング）をどのように活用できるか、見ていきましょう。
ランダム バージョニング： 不特定多数の購入者を対象としたパッケージ
商品のタイアップ企画として、アベンジャーズに登場するキャラクターごとのパッケージを用意することができます。映画館のポップコーン容器、包装紙、シャンプーボトル、歯磨き粉など、正面にキャプテン・アメリカが描かれているものもあれば、ハルクが描かれているものもあるでしょう。
アフィニティ バージョニング：特定の購買層や共通項を持ったグループ、地理的条件などに結びつけたパッケージ
コミックコンベンションは、マーベルにとってファンとつながるための大切なイベントです。ファンはお気に入りのキャラクターに扮し、映画スターはサインに応じ、今後公開予定の映画も上映されます。スカーレット・ヨハンソンやロバート・ダウニーJr.といった俳優陣がイベントに参加すれば、彼らのファンが大挙して押し寄せ、ブラック・ウィドウやアイアンマンのイベント限定のキャラクター商品が飛ぶように売れるのは当然のことです。
ラベルを複数のスポーツチームごとに貼り分けることで、各チームのファンにアピールします。
オンリーワン バージョニング：独自のデザインを施したパッケージ
もしあなたが、ある商品パッケージの唯一無二のバージョンを持っている、世界でたった一人の人間だったらと想像してみてください。その商品はとても特別なものになるでしょう。マーベルコミックは発刊当初から、数多くのコレクターが存在することで知られています。ファンたちは、マーベルの関連商品をコレクションすることが大好きな人々です。そこで、「同じものが2つとない限定商品を発売します」と言えば、世界に1つだけのアイテムを手に入れたくなるに違いありません。そして、それをずっと大切に持ち続けてくれることでしょう。
この書類ケースは、世界に一つだけのデザインを施しているため、購入者は特別な気分を味わうことができます。
パーソナライズ バージョニング：ひとり一人の消費者を対象としたパッケージ
オンリーワン バージョニングをさらに進めて、パッケージをパーソナライズしてみましょう。ここでも、グッズを集める熱心なファンが登場します。世界に一つだけという価値に加え、自分の名前がプリントされているのです。最高の気分です。ファンは自分の名前が入ったパッケージを欲しがり、それは一生の宝物になるでしょう。
これはマーベルの世界に限ったことではありません。ビール、ワイン、スピリッツなどの酒類から、化粧品、香水、スキンケアまで、あらゆる商品のパーソナライズは、特別な感情をもたらします。
（出典：石屋製菓） 自分でデザインしたパッケージで、忘れられない顧客体験を提供します。
オンラインとオフラインの世界をつなぐ
スマートフォンに夢中になり気が付いたら1時間経っていた、という経験はありませんか？簡単にオンラインの世界に引き込まれてしまうことに驚いてしまいます。私たちにとって、オンラインの世界は、多くの意味で、実際の物理的な世界と同じくらいリアルなものになっています。だからこそ、お客様に快適な記憶に残る体験をしていただくためには、オンラインとオフラインの世界を統合することがとても重要なのです。
画像認識技術やQRコードなどを使って、ハウツービデオやプロモーション、クーポン、マイレージプログラム、イベント情報とうまく組み合わせれば、お客様のブランド体験はさらに深まります。また、AR（拡張現実）やVR（仮想現実）を使った店頭POPやパッケージを駆使すれば、買い物中から特別なブランド体験に出会えるでしょう。
こんな時代だからこそ大切なパッケージデザイン
いまパッケージデザインは大きな飛躍の時を迎えています。これまで述べてきたような強力なデザイン戦略と、デザイナーや印刷業者とのパートナーシップにより、ブランドオーナーはパッケージデザインのイノベーションの可能性とその効果を見出すことができます。パッケージは、人の目を惹きつけ、ユニークでパーソナルな手段で消費者を魅了し、ブランドロイヤリティを高め、売上を増加させることができます ― たった8秒の間に。
*1 Microsoft社の調査によると、平均的な人間の集中力持続時間は2000年には12秒であったが、2013年には8秒間にまで落ち込んでいるとされる。これは、金魚の集中力持続時間の9秒よりも短い。（参照文献：Microsoft attention spans, Spring 2015）
理想について