おりも みか
製造業ライター
2022年10月12日~14日、東京ビックサイト西ホールにて食品開発展2022(主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社)が開催されました。食品開発展は食品の4大テーマである「健康」「美味しさ」「安全衛生」「フードロングライフ」に関わる専門展示会です。
健康・機能的食品素材を紹介するヘルス イングリディエンツジャパン(Hi Japan)、食品の美味しさを追求した技術や商品の展示を行うフード・テイストジャパン(FiT Japan)、食品の安全性・品質向上を目指す技術を提案するセーフティ&テクノロジージャパン(S-tec Japan)、フードロス削減のためのロングライフ化技術を展示するフードロングライフジャパン(LL Japan)の4つのカテゴリーで行われました。出展企業は450社以上、出展社によるプレゼンテーションは330講座以上、主催者企画の記念セミナーも32講座と充実した内容で、全日程を通して多くの来場者が訪れ、コロナ禍を感じさせない盛況ぶりでした。
今回の視察で特に気になったのは、プラントベースフードと、食材を充填してプリントすることで食品に機能を付加できるフード3Dプリンターでした。
注目を集める「プラントベースフード」
全体の展示を通して、特に各社が力を入れ、注目を集めていたのがプラントベースフードです。
プラントベースフードとは、大豆や小麦たんぱくといった植物性の素材から作られた「代替肉」などを指します。年々市場規模を拡大しており、2027年には123億2,000万ドルに達すると予測されています*1 。
プラントベースフードは、畜産起因の温室効果ガスの削減や、人口増加による食料危機への対策など、近年注目されているSDGsの流れの中でより注目度が高まっています。
さらに、植物由来の代替肉は通常の食肉に比べてコレステロールが少なくカロリーも低いため、健康志向の人たちにとっても関心の高い食材です。宗教や思想、アレルギーなど、「何を食べるのか」についても多様性が広がっている社会において、プラントベースフードは新しい食材として大きな可能性を秘めています。
最近では、スーパーやファストフードでも手軽に購入できるようになってきましたが、欧米各国に比べ、日本の市場はまだまだ開拓の余地がある状況です。今回の展示会でも、さまざまなメーカーから開発したばかりの新商品が紹介され、多くのブースで試食も行われており、実際に味や食感を確かめることができました。
森永製菓株式会社 SAI MEAT
食品大手の森永製菓は、なんと50年以上前から代替肉の開発を行っています。菓子や健康食品で培った食感技術や風味技術を生かして開発されたSAI MEAT (サイミート)は、大豆たんぱくを使用したプラントベースフードです。シンプルな材料で作られており、動物性原料は使用されていません。
厚みのある1枚肉タイプのため、食べ応えは十分。口に入れると解ける繊維感と、ジューシーさが特徴です。
試食したところ、ドレッシングで味付けされているとはいえ、湯葉のような大豆の味を感じました。ですが青臭さなどはなく、代替肉にありがちなパサつきもありません。一口でずっしりとお腹にくるような満足感があります。味付け次第でさらに美味しさがアップしそうなポテンシャルを感じました。
また、水とともにパックされているため、気になる大豆臭が抑制され、この水に味をつけることで、より調味の幅が広がります。解凍や水戻しなどの手間がなく、常温保存が可能な点も利便性に優れています。
株式会社SEIYO SOYΦ
SEIYOが開発したSOYΦ(ソイファイ)は、従来の脱脂大豆を用いず、独自の技術で全脂大豆を原料としたプラントベースフードです。
自社が持つ穀物などの粉末加工技術を活かし、大豆をそのまま利用するため廃棄物が少ないということです。また、大豆の油が残っているため、プラントベースフード特有のパサつきが抑えられてしっかりとした歯ごたえが得られます。
味付けのない素材のまま、そぼろとブロックを試食しました。噛みしめる毎に大豆特有のうまみが感じられ、嫌な青臭さも全くありませんでした。これが調味によってどう化けるのかは未知数ですが、食肉の代替としてだけではなく、トッピングや健康的なスナック菓子などへの展開が期待できます。
ユニテックフーズ株式会社 LORY 小麦タンパク TEXシリーズ
大豆由来の代替肉は、どうしても大豆そのものの味を感じるため、いかに大豆臭をなくすかということが課題になりますが、小麦たんぱくを用いたプラントベースフードは薄味で調味できるので、より使い勝手が良くなっています。
小麦たんぱくは、グルテン構造によってたんぱく同士の結着を強めることができるため、単体としても歯ごたえのある食感があり、大豆たんぱくに加えることで、さらに結着性を高める効果が期待できます。
試食に出ていたミートソースは、しっかりとした歯ごたえを感じながらも、トマトの風味を邪魔せず、調味次第でどんな味にも対応できる点で大きな可能性を感じました。
株式会社Tastable ニクベジ
株式会社Tastableが展開する植物性食品「NIKUVEGE(ニクベジ)」シリーズは、大豆たんぱく、小麦たんぱくを使用した、動物性原料不使用のプラントベースフードです。昆布やきのこ類などのうまみ成分を持つ食材を使うことで、日本人になじみのある美味しさを追求しています。ニクベジのパティは、動物肉を使用したパティの製造に比べ、水を92%、温室効果ガスを98%削減できるなど、美味しさだけでなく環境負荷低減にも貢献しています。
ハンバーガーパティを試食しましたが、ソースなどの味付けがなくても十分うまみがあり、たまねぎの食感や炭火で炊いたような風味は物足りなさを感じさせません。単体として完成された味で、代替肉だと身構えなくとも美味しく食べられました。
食感・食味を「デザイン」するフード3Dプリンター
プラントベースフードはやはり味や食感をどこまで違和感なく、美味しく食べられるようにするかという点が課題です。各社はそれぞれの技術や工夫によってさまざまな商品を展開していますが、立体構造制御によって、食感や味をコントロールするという新しい着眼点の新技術がフード3Dプリンターです。
ローランド ディー.ジー.は、参考出展のフード3Dプリンター「DF-2」を用いて、「食べ応えのある介護食」をテーマに岩手大学と共同研究しています。誤嚥防止などの観点から、介護食はゼリーやムース状のものが多くなっていますが、食べ応えがないというユーザーの声が多く上がっていました。
3Dプリンターによって、食べ応えと安全性を両立できるような構造を作り出すことが可能になります。
積層パターンを組み替えることで、例えば味を強く感じることのできる低糖・低塩の食品など、従来の手法では実現できなかった新たな食品が期待できます。
また、クリーム状から生地の固さ位までの幅広い材料が使用できるので、ギフトに最適なパーソナライズフードを作ることもできます。
イラストパンケーキが展示されており、イベントカフェなどでの利用もできそうです。
デジタル化で食品に新たな価値を
同社では、フルオートで菓子型を切削加工するデスクトップ切削加工機MDX-50のデモンストレーションも行っていました。従来職人が製作していた和菓子用の木型や、チョコレートなどに使用されるブリスターパックの真空成形型、またMCナイロン素材の流し型の製作を簡単に、素早く行うことができます。チョコレートのメーカーやショップが手軽に型を社内で製作することができるようになれば、キャラクターのコラボ商品や、季節やイベントの限定商品など、バリエーションを容易に増やせるでしょうし、より特別感を演出することができるのではないでしょうか。
デジタル技術によって、食品にオリジナリティやスペシャリティといった新しい「価値」を与えることが期待できます。
「食」は人が生きるうえで欠かすことのできない大切なものです。特に、豊かな現代における「食」の役割は、栄養やカロリーを摂取するだけではなく、美味しさや美しさ、楽しさ、さらには健康や地球環境への配慮など、どんどんと広がっていると感じました。今後も新しい技術によって、さらに広がりを見せていくのではないでしょうか。
*1 ^出典:「植物性代替肉の世界市場:原料別、タイプ別、製品別、地域別見通し、産業分析レポートおよび予測(2021年~2027年)」(KBV Research)