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スペシャリストコラム

ラベル印刷をデジタル化するメリット

大野 高志

大野 高志
ラベル新聞社 編集部

『ラベル新聞』は1969年、ラベル業界唯一の専門紙として創刊しました。シール・ステッカーなどの粘着ラベル、シュリンク・インモールド・ラップラウンドなどの非粘着ラベル、RFID*1・NFC*2技術を活用したスマートラベルといった領域をカバーし、技術・素材・加工資機材・製品・周辺機器・システム・市場などラベルビジネスに関わるすべての皆さまに役立つニュースをお届けします。
筆者はデジタル印刷分野を中心に取材活動を行い、海外展示会などにも出没しています。

東京都ではまん延防止等重点措置が解除されたとはいえ(本稿執筆時点)、感染対策のため花見とそれに伴う宴会も思う存分堪能できずにイマイチ季節感に乏しい日々ですが、新入社員や新入生らにとっては新たな環境で生活が始まる春を迎えました。新年度を機に、新規事業をスタートさせた企業もあったことでしょう。

スタートアップ企業の勃興やスモールビジネスの台頭が顕著な北米を中心とした話を紹介しますと、コロナ禍でライフスタイルと働き方に変化が生じ、デザイナーをはじめとしたクリエーターらによるデジタル印刷の活用事例として、オリジナルデザインの雑貨、Tシャツ、ステッカーといったグッズを販売するビジネスが盛況なようです。日本国内でも、小ロットからオリジナルグッズを製作できる印刷通販サービスが徐々に浸透し、法人・個人を問わず、引き合いが増加傾向にあります。不確実性の時代の中で新たな一歩を踏み出すのに、在庫を持たずに小ロットから販売できるオンデマンド印刷を活用した低リスクのサービスは、今後も伸長を続けていくものと見込んでいます。

データからみるラベル業界のデジタル化の現状

特定の個人向けに特化した印刷物のパーソナライゼーション、必要な時に必要な分だけ印刷できるオンデマンドな製造体制の構築を望む消費者やブランドオーナー、デザイナーからの声は年々高まっています。これらのニーズを満たすため、ラベル印刷会社でもデジタル印刷用の設備導入が進行中。国内のラベル印刷会社の3社に1社がデジタル機を設備しており、年々、デジタル機の出荷割合は増加しています。2021年の国内におけるラベル印刷機出荷台数約200台のうち、ロール to ロールの生産機としてのデジタルラベル印刷機が占める割合は約15%。印刷機設置台数でみると、2021年時点で設置台数約1万1,000台のうちデジタル印刷機は約3%となっています。

フルバリアブル印刷をはじめ、多品種小ロット対応などラベルユーザーにとって利便性の高いデジタル印刷ですが、製造を担う印刷会社が受けられる恩恵も多岐にわたります。コンベンショナル方式と異なり版レスで印刷ができるため、版の製造と保管の費用を削減できるほか、ラベル印刷で多用される特色インキの残肉も低減できるといった利点が挙げられ、コストと環境対応の観点から有用な印刷設備と認識されています。近年、特に課題となっている人材確保に関しても、DTPオペレーターがデジタル印刷機のオペレーターを兼任可能。デジタルラベル印刷機の設置からオペレーターのトレーニング、運用開始までの期間がコンベンショナル方式と比べ短くて済むケースが大半で、コンベンショナル機への大ロットジョブの集中と資材ロス削減による利益率の改善、柔軟な製造体制の強化に即効性を発揮する点も評価されています。

印刷速度に関しても高速生産機が台頭しているほか、当社が実施しているラベル印刷会社へのアンケートでは、4色以上の印刷機のセットアップ時間は平圧機41分に対し、デジタル印刷機は18分という回答結果も得られ、迅速な多品種展開に対応していることが数値に表れました。

より大局的な観点でも、デジタル印刷による環境負荷低減への効果が期待されています。複数拠点間で同一の印刷物を製造するにあたって、コンベンショナル方式では印刷品質はオペレーター個人のスキルへの依存度が高い一方、デジタル印刷機は印刷データを共通化することで一定の品質標準化が図れます。こうしたデジタル印刷の特徴を生かし商品ラベルや表示ラベルを消費地に近い場所で製造することによって、印刷品質を保証した上で、一カ所で大量生産してから各地へ輸送する場合と比べ、輸送にかかる費用や環境負荷を低減することが可能になるのです。「Japan Color」や印刷の国際規格「ISO12647」シリーズにおける「G7」など、各種認証制度の運用による品質標準化への施策も充実しています。商業印刷分野でも、マーケティングツールに利用されるダイレクトメールを送付先に近い印刷会社が印刷することで、最適なタイミングでの販促と輸送費・環境負荷の低減が実現できます。

デジタル印刷の将来性

市場と印刷会社のニーズ、出荷台数のデータからもデジタル印刷が拡大していることは読み取れましたが、活用法の面からもデジタル印刷の将来性を考えてみましょう。デジタル印刷の特性を生かした商品は、身近なところでみられるようになっています。元号が変わったタイミングでは、“令和デザイン”のラベルを採用した飲料や菓子類が新元号発表からわずか数時間後には印刷・加工・商品への貼付を経て街中で配布されるというサプライズがありました。また、フルバリアブルですべての絵柄が異なる一点モノのイベント用ラベル、キャンペーンシールのナンバリング、2次元コードなどにもデジタル印刷が欠かせません。

営業所や店頭にも設置できるインクジェットプリンタと卓上サイズの産業用ラベルプリンタの導入も拡大傾向です。ドリンクや調味料をオリジナルフレーバーにカスタマイズできるようなサービスに付随して、店頭で即時オリジナルラベルを出力するといった事例もみられます。コロナ禍では、飲食店向けの出荷が減少したアルコール飲料を小びんへ詰めて一般消費者へ販売するために、デジタル印刷機の小回りのよさが重宝されたなどの反響も。海外では複数のワイナリーが1台の産業用ラベルプリンタを共同購入し、限定品・試作品のラベルを極小ロットで製造して商品を展開している話も聞かれます。

デジタル印刷は従来のレタープレスやオフセットといったコンベンショナル方式からの置き換えだけではなく、柔軟性と瞬発力を発揮し印刷物の活用シーン拡大に資する生産設備として、今後もユニークな採用事例を続々誕生させていくことでしょう。

カスタマイゼーションされたオリジナルラベルのドリンクで一人花見をしながら、新たなラベル需要の創出を心待ちにしています。

*1 ^Radio-Frequency Identification の略。無線を用いた自動認識技術の一種で、タグ(荷札)と呼ばれる小さなチップを用いて、様々なモノを識別・管理するシステムのことである。(参考文献:weblio辞書)
*2 ^Near Field Communicationの略。最長十数cm程度までの至近距離で無線通信を行う技術。(参考文献:IT用語辞典)

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