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スペシャリストコラム

Makers’ Baseのオーダーメイドビジネスがアフターコロナに急成長する理由 -後編-

松田 純平

松田 純平
株式会社Makers’ 代表

前職ではマーケティングやヒューマンリソース専門のコンサルタントとして様々な事業企画に従事。個人のものづくりを支援する工房の企画に携わったことをきっかけに、会員制工房「Makers’ Base」を立ち上げるに至る。展開される数多くのユニークなワークショップはものづくりファンのみならず、一般層からも圧倒的な支持を集め、国内最大規模の会員数を誇る。

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グッズの素材として、革や機能性ファブリックを中心に選定されています。素材を選ぶ際に考慮された点はありますか。

普段から工房のワークショップやイベントで使っている、多種多様な素材の中から選定しているというのが基本です。ただ、オンラインで買い物をする時には別途送料がかかってきますし、実店舗を維持していかなければならない我々からするとなおさらのこと、ある程度の価格をキープする必要があります。要は、それを払ってでも欲しいと思わせる価値を持ったものでなくてはならない。コットンTシャツより、レザーグッズのほうが当然高い価格になりますから「革」という素材は重要視しました。


どういった種類の革を選定されていますか?

使っているのは本革(天然革)です。なぜ合皮ではなく本革を使っているかというと、やはりここも価格です。扱いとか、一枚の革から作れる数を考慮すると合皮が圧倒的に勝ります。ただ、少なくとも日本人にとっては、合皮と本革っていうのはイメージが全然違うものだと思っていて。作り手の都合だけで考えていくと合皮を選択する人がほとんどではないでしょうか。見栄えは変わらないと言えば変わらないし、プリントクオリティもむしろ合皮のほうが安定します。一方で、お客様が払う金額から考えていくと、より良いものとして認知されている本革を選択すべきだという考えはありました。

「PET DOT SHOP」をギフト用途に利用されるケースも多いと思いますが、そういったニーズを考えても本革はハマりそうですね。

そこは意識して設計しました。安ければ売れるという発想は多分逃げで、適正価格で売れるのが一番正しいということです。需給曲線の交わるところをイメージするんですが、今の倍の価格をつけると、注文が半分になって同じ売上をキープできるかっていうと、多分そんなことはなくて、落ちると思うんです。逆に、今の半値にすると、注文が倍になるかというと、そんなこともないだろうと。期待と価格が合っていない状態になるんだと思います。

こういう価値のあるものはこういう価格で買いたいっていう、その潜在的な期待値みたいなものにきちっとマッチした価格、それが適正価格で、僕らはそこを見極める必要がある。そこの感覚がズレているとビジネスとしてハマらないということは往々にしてあります。SNS上で、「これかわいいねっ」とイイネが沢山ついても売れないっていうのは、だいたい価格のズレです。

実は、ペットの企画と同時に、イベントですごく好評だったお弁当のオンライン企画を走らせたんです。自分でチョイスしたおかずを組み合わせて作ったお弁当のイラストを、1点もののT-shirtsにして販売するものです。イベントでは2,500円とか3,000円ぐらいを平均価格にしていましたが、オンラインに持っていった時に絶対ペイしないというのがあったので、500円~1,000円ぐらい値上げしたんです。それでも価格弾力性は許容できるというか、それぐらいでハマっていくと思ってやってみたら、全然売れなくて。もう本当にうんともすんとも言わないぐらい売れなくて。

どちらかというと、最初はそっちを売ろうかなと考えていました。付随する企画とか、展開とか、先があると思っていたんです。でもハマらなかったのは価格の問題が一番大きくて。じゃあ下げてやれるかっていうと、もちろんそれはできない。そうすると、売れば売るだけ疲弊していく訳で。だから、売価に見合った素材を選択するというのが僕らにとっては一番重要です。


今回のグッズ製作ではどのような機器を使用されていますか。

全てローランド ディー.ジー.のラインナップで製作しています。革製品へのプリントには、LEF-200やLEF2-200といったUVインクジェットプリンターを複数台使用しています。また、巾着袋やパジャマなどの生地を使ったアイテムには、昇華転写プリンターのRT-640を使っています。その他、プレゼントでお配りしたり、オプションにしているコットンファブリックのアイテムは、ガーメントプリンターBT-12で印刷しており、大活躍してくれています。

当社の開発責任者も、ローランド ディー.ジー.のプリンターは圧倒的に使い勝手が良いと言っています。特にLEFシリーズは印刷画質が良く、RT-640は狙った色が出しやすい点を評価しています。

あと、PVC素材で検討しているプロダクトがあって、そこには新しいレッドやオレンジのUVインクを搭載したLEC2シリーズがはまるんじゃないかと思っています。発色の良い画が出せるってことなので、期待しています。

オーダーグッズビジネスで、デジタル機器を使用することのメリットはどういったところにありますか。

やっぱり一般的なところだと、1点ものが作れるということだったり、小ロットを効率的に作れるところじゃないかと思います。デジタル機器を使ってこういうオリジナルグッズのビジネスをする時に、うまく活かせるパターンが二つあると思っていて。ひとつはとことん手間を省いて安くして沢山さばくっていうパターン。トートバッグにもらった写真を加工せずにそのままプリントだけして、1,500円で売りますとか。

もうひとつは、がっつり作り込んでいくパターン。要は、デジタルプリントだけで完結させようとするか、それとも一部として捉えるかだと思っていて、僕は後者が好きなんです。何故なら、価値が上がるし、そうすると単価も上がるんです。プリントって基本的に、素材だけでは十分な価値が出ないから行うことじゃないですか。真っ白な革よりも、プリントした方が成果物に価値が出る。だとしたら、その他の要素もアドオンできるような仕組みにしていくのは、プロダクトの価値を高めていく上で結構大事なんじゃないかと思っています。


あえて人の手を加えるということでしょうか。

デジタルプリントを導入しただけで何とかしようとしちゃうと、多分それではオリジナルグッズのビジネスで生みだせる価値は相当低いと思います。裏を返せば、デジタルプリントに、手作業だったり後加工だったり、アナログの要素を付加することでアイテムの価値が高まり、より質の高いビジネスになるということです。ある素材にプリントができることの意外性は、「すごい!」という驚きにはなるけど、お金にはならない。その「すごい!」をお金にするには、何か別の要素と組み合わせないときついかな、と。

今後「PET DOT SHOP」をどのように発展させていきますか?

ひとつはエリア拡大、もうひとつはプロダクトのバリエーションを拡大していくという2軸での展開を考えています。エリアと言っているのは海外への展開ですね。プロダクトの拡大としては、月に一つは新作をリリースするという計画を持ってやっています。12か月くらい先までは企画がありますが、一気に出すのではなく、少しずつ増やしていくつもりです。増やしていくものの中には、定番化してラインナップに定着するものもあれば、期間限定でやるものもあります。ラインアップの数はどれくらいが適正かは分かりませんが、もしかするとエリアによって変化させることも考えなくてはなりません。デザインを工夫したり、プロモーションを展開したりということはもちろん織り交ぜて行きますが、主としてはこの二つの方向性で、事業を拡大していきます。

本日はとても興味深いお話、ありがとうございました。

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