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スペシャリストコラム

玩具の安全性―規格や法規制など

おりも みか

おりも みか
製造業ライター

前職の国内大手玩具メーカーでは、生産技術と品質管理を担当。
主に中国・日本国内にて、プラスチック製玩具、雑貨、遊戯機器などの開発・製造管理や、安全規格に関する試験・評価を行う。
中国工場におけるセル生産ラインの新規立ち上げを担当。CPE、CPE-ME(生産技術者マネジメント資格)を取得している。
現在は製造業を中心とした技術系ライターとして、企業のホームページ、WEBメディアなどで解説ページやコラムの執筆を行っている。

世界の主要な玩具の安全基準

近年、玩具による事故は世界的に大きな関心事となっています。玩具による事故の大半は15歳未満で、怪我だけでなく重い障害が残ったり、死亡事故につながってしまうこともあります。

そういった状況のなかで、玩具の安全性に関する国際規格としてISO8124が定められています。これは主に玩具の欧州規格であるEN 71、アメリカの玩具の安全性基準であるASTM F63が基になっています。また日本でも、これらの規格に基づき、日本玩具協会によってST基準が定められています。

これらの規格・基準において規定される玩具の対象年齢は、15歳未満と定義されています。

安全基準の内容とは

ST基準を例にとり、これらの規格の内容をご説明します。

1.物理的安全性

物理的安全性とは、玩具の形状に誤飲、窒息、突き刺し、切創などの危険性がないかという内容です。

玩具のパーツが小さすぎるために、子どもが誤飲をしてしまう恐れがないか。特に、磁石や電池の誤飲は危険性が高く、死亡例も多発しており注意が必要です。
また、ボールなどの円や楕円の形状は、気道を詰まらせて窒息してしまう恐れがあるため、大きさや形に配慮が求められます。

さらに、紐状のもの、子どもがかぶることのできるビニール袋やシート、口や顔を覆うことができるお面などの玩具も、窒息の恐れがないか検査を行います。
規定以上の長さの紐は、加重がかかると外れる金具を付けたり、袋やシートには穴を開けるといった工夫が必要です。

玩具の先端が尖っていたり、縁が鋭利になっていることで、子どもの肌や目などを傷つけてしまわないか。または、子どもが指などを入れてしまい抜けなくなってしまうような穴や隙間はないか、ということにも気をつけなくてはなりません。

そして、これらは落下、引っ張り、折り曲げ、ねじりなどの機械的強度検査を行い、玩具が破損した際にも、上記のような危険な箇所が発生しないかということを検証します。

物理的安全性

2.可燃性

子どもが身に付けたり、中に入って遊ぶような玩具、また、ぬいぐるみなど常に携帯する玩具では、ニトロセルロースのような燃えやすい材料が使われていないか、表面フラッシュと呼ばれる瞬間的に表面に火が回る現象が起きないか、燃焼速度が基準を超えないかを確認します。

3.材料の安全性

玩具に使われている樹脂、木、金属、ゴム、紙などの原材料や、加飾に使う塗料やインクに有害な物質が含まれていないか、また溶け出さないかを確かめます。

  1. 重金属(鉛、ヒ素、カドミウム、クロム、水銀、アンチモン、セレンおよびバリウム)が溶け出さないかどうか。
  2. 可塑剤に含まれるフタル酸エステルの含有量が基準を超えないかどうか。
  3. 着色料の溶出が基準を超えないか、また溶出した場合は食品衛生法にて許可された色素であるか。

    その他、アゾ染料やホルムアルデヒド、過マンガン酸カリウムなど、製品の特性や原材料によって検査項目が異なってきますし、各地域によって使用できない薬品が異なります。

    食品衛生法に基づく検査

    日本においても、乳幼児向けの玩具や、クッキングトイなど食品に触れる玩具はSTだけでなく食品衛生法に基づく検査が必要です。これは海外から輸入する際にも必ず必要となってきます。上記と同様、重金属や着色料のほか、原料の樹脂の種類によっても必要な検査が異なっているため注意が必要です。

    玩具製造の中心は中国

    世界の玩具は70%以上が中国の工場で製造されていると言われています。
    生産の際は、その工場が私たちの求める品質基準をクリアできるかどうか、適切な管理がなされているかを判断しなくてはなりません。
    中国国内向けの製品と日本や欧州へ輸出される製品では、使用できる材料や塗料に違いがあるため、これらが混ざってしまい試験に不合格になってしまうというトラブルも起こります。

    中国の工場

    こうしたトラブルを回避するためには、販売地域において必要な規格・基準を知り、工場任せにするのではなく、能動的に品質管理を行うことが大切です。
    輸出入の際などには、認証を受けた試験所にて検査を行う必要があり、事前に検査に必要なサンプル数やスケジュールを確認しておくことも重要です。

    世界の状況は刻一刻と変化する

    中国国内ではCCC(中国製品安全強制認証制度)が始まり、販売される玩具については安全基準に従う必要があります。
    アメリカでもCPSIA(消費者製品安全改善法)が施行されたり、また、各州や販売代理店によっても求める基準が異なっている場合があります。
    その他にも、国によって独自の基準や規格が使用されていることもあります。

    新たな事故や、新しい素材が開発されることで規格や基準は改訂されます。インターネットの普及した現代では、他国の製品事故があっという間に拡散され、それが基準改定の動きにも繋がります。
    基準の改訂によって、使用できる薬品などは大幅に変更される可能性もあります。常に最新の情報を得るために、工場や流通、試験所や役所とも連携をとっておくことが大切です。

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