Roland

スペシャリストコラム

カラーマネジメントの意義、活躍する分野とツール類(前編)

伊藤 健

伊藤 健
CGS Japan 株式会社
取締役 テクニカルマネージャー

工業高校の機械科を卒業後、工業用フィルムの二次加工メーカーへの入社をきっかけに印刷業界に身を置くこととなる。約15年前に現職に就き、印刷会社やメーカーなど、さまざまな業種のお客様にカラーマネジメントソリューションの提案やコンサルティングを提供してきた。色に関する知識が全くない状態で印刷業界に従事し始めてから早34年、経験を積むことで何とか生きていけるという事を実感している今日この頃。影の立役者ともいえるカラーマネージメントに誇りを持ち、お客様に重宝される存在を目指して精進の日々は続く。

二十年近く前に登場した水性顔料インクを搭載した大判インクジェットプリンターの普及により、印刷業界の色校正は大きく変化しました。プルーフ専用紙に高精細な印刷品質を手軽に印刷できる利便性や、導入のしやすさが普及の背景にありました。その一方で、鮮やかな色表現が得意なインクジェットプリンターを使用し、本生産で使用される印刷インキのシミュレーションを行うためには、カラーマネージメントの技術が非常に重要なファクターでした。印刷業界のさまざまなベンダーがカラーマネジメントソフトウェアを開発、改良を繰り返しながら今日に至っています。

そして、昨今ではプリンタメーカー各社からさまざまなニーズに対応した水性顔料インク以外のインクジェットプリンターがリリースされています。紫外線や熱を使ってインクを瞬時に硬化、あるいは乾燥させることができ、多様な材質に印字が可能になったUVインクや水性レジンインクの技術を備えたプリンターがその代表格と言えます。これら、異なる素材への印刷対応力が格段に向上した技術の登場により、それまでの専用紙を用いたプルーフに対して、最終生産で使用される印刷本紙や軟包装フィルムに直接印刷ができる「本紙プルーフ」という新しい色校正の手法が広まってきました。

特に、色の再現性に加え印刷本紙の手触りや風合い、質感が重視されるパッケージ印刷業界において、お店に並ぶ最終生産品に使用される「本紙」への印刷結果が、正確な色で再現できるこれらのプリンターとカラーマネジメントソフトウェアは、デザイン決定プロセスにおいて不可欠なソリューションとして注目を集めています。

軟包装の最終生産で使用される30ミクロンもの薄いBOPPやPE、PET素材などに印刷ができるUVインクジェットプリンターLEC2-330シリーズ

紫外線で瞬時にインクを硬化させるUVインクジェットプリンターの場合、インクの塗膜が比較的厚めに保たれる性質があり、透明のグロスインクを使用することでパッケージ印刷で重宝される光沢ニスやマットニス、疑似エンボスやテクスチャのような特殊表現を再現できるため、モックアップやプロトタイプ製作に向いています。一方、水性レジン系のインクは、高熱をかけて水性インクの水分を瞬時に蒸発させるため、比較的塗膜が薄く、特に紙系素材における印刷の仕上がりが印刷インキに近くなるため、カラープルーフ向きです。

透明のUVグロスインクを使用したスポットニスの再現例

このように、本紙を使用したカラープルーフや色の正確なモックアップの需要がパッケージ印刷分野において高まっている中で、今後の本紙プルーフに求められる非常に重要な要素となるのが、特色インキの疑似シミュレーションです。パッケージ印刷では、4色プロセスカラーでは再現できないような特徴的なブランドカラーや商品棚で目を惹く色合いが非常に重視されるため、ポスターなどの商業印刷物と比較して格段に特色インキの使用量が増えます。プリンタメーカー各社においては、CMYKの4色によるプロセスカラーだけではなく、オレンジやグリーン、レッドなどの特色インクを併用した広色域プロセスカラーに対応したモデルがリリースされるようになってきました。CMYKやライト系インクだけでは補えない色域を補色インクによってサポートすることで、印刷インキのスポットカラーを疑似的にシミュレーションする精度は大幅に向上します。

CMYKの4色プロセスに、オレンジやグリーンの特色インクを兼ね備えたプリンターは、色の表現範囲が広く、PANTONEなどの指定色も再現しやすい。

また、カラーマネジメントソフトウェアにおいても特色のシミュレーション機能がかなり充実してきました。複数の特色インキを重ね合わせるオーバープリントが施されたデザインの場合、本生産時に重ね合わせの結果どのように見えるかをシミュレーションすることが求められます。精度を向上させるために、カラーマネジメントソフトウェアに取り込むカラー測定値は、分光光度計によるスペクトラルデータ(分光反射率)を元にした特色インキの不透明度や隠蔽性、刷り順をも考慮したアルゴリズムが組み込まれるようになりました。こういった技術革新により、特色インキのシミュレーション精度が大幅に向上してきました。

CGS Japanが販売するCXF TOOL BOXが格納する特色インキのカラー測定データは、色相を示すLABのみならず、分光反射率や刷り順も組み込むことができ、高精度の特色インクシミュレーションをサポートする。

このように、印刷本紙に直接印刷可能なインクジェットプリンターとカラーマネジメントソフトウェア、そして色を数値化する分光光度計を組み合わせることで、4色プロセスカラーだけではなく、スポットカラーの高精度なカラーマネジメントも可能な時代に変わりつつあるのです。

実際の導入事例として、CGS Japanが販売するカラーマネジメントソフトウェア「CGS FLEX PACK」にローランド ディー.ジー.のUVインクジェットプリンター「VersaUV LECシリーズ」、「VersaUV LEC2シリーズ」、あるいは溶剤インクジェットプリンター「VersaCAMM VSiシリーズ」、「TrueVIS VG2シリーズ」を接続し、軟包装や紙器パッケージのカラープルーフ運用や、モックアップ製作を実践して頂いているお客様が多数お見えになります。

後編へ続く

スペシャリストコラム

さらに表示