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スペシャリストコラム

小さな素材が果たす、環境への大きな役割 -後編-

山本貴司

山本貴司
リンテック株式会社 事業統括本部
印刷・情報材事業部門 市場開発室 室長

1992年入社。研究所、大阪支店、海外(中国)を経験、帰国後現在の部署に籍を置き、シールやラベルなど粘着素材の新しい市場や用途の開拓を進めている。

家庭ではゴミの日の「シール剥がし」担当。お店に行くと必ず商品のラベルを剥がしたり、においを嗅いだりして、店員さんに不審な目で見られている。ちなみに不審な目で見られることに耐えられるほどメンタルは強くないので、お店を出るたびに罪悪感にかられている。

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環境に配慮した技術は、日ごろ目にする小さなシールやラベルのどんなところに詰まっているのでしょうか。そちらをお話する前に、まずシールやラベルの構成を簡単に説明したいと思います。
いろんな商品に貼られているシールやラベルで、皆さんがまず見ることになるのは紙やフィルム。カラフルなデザインや法律上必要な情報が印刷されていますよね。この紙やフィルムを「表面基材」と呼びます。そして、この表面基材を商品にくっつけるために塗られているベタベタしたもの、これが「粘着剤」です。この表面基材と粘着剤が組み合わされて商品などに貼られるというのがシールやラベルを使用する基本的な流れになります。
ご存じのように、シールやラベルはさまざまな環境で使われています。暑いところや寒いところ、湿度が高かったり低かったり。また貼られている場所は丸い面だったり、凸凹だったり、ザラザラだったり、水や油がついていたり・・・意外と過酷な使われ方をされていますが、皆さんあまり気にされていません。そういうものを作っている自分としては、もっと日の目を見てほしい!と思うのですが。
何が言いたいかと申しますと、そういった非常に幅広いシチュエーションに応じて表面基材や粘着剤をきちんと選定しているということなのです。

使い方に応じたラベルの表面基材

そんなシールやラベルの表面基材によく使われているのがPET(ポリエチレンテレフタレート)というプラスチックフィルムです。
プラスチックフィルムの原材料はご存じのように石油です。石油は大昔に育った植物や動物の死骸が地中に埋もれ、熱や圧力が長い年月かけられてでき上がったもので、現在では「枯渇資源」(採取し続けるとなくなってしまう資源)の一つになっています。石油はプラスチックの原材料のほか、人々の生活にとって欠かせないエネルギーである電力の原材料でもあり、この資源が少なくなっていくことは私たちに大きな影響を及ぼします。枯渇資源の節約は人類にとって大きな課題ですね。なんとか石油の使用量を少なくしてフィルムを作ることはできないでしょうか。そこで出てきたのが「再生PET」。すなわちPETとして一度使われたものを再利用しようということです。再生PETとなる素材は皆さんご存じの「PETボトル」です。
日本ではPETボトルの回収システムが確立されていて、再生PETを利用して衣料や文具などさまざまな製品・商品に生まれ変わっています。
ただし、シールやラベルの材料になる「フィルム」としては、あまり利用されてきませんでした。その理由は再生PETであるがゆえに品質面で課題があったからです。先ほども述べた通り、シールやラベルはさまざまな環境で使用されます。その中でも、特に商品をよりクリアに見せる「透明性」や、引っ張った時の「強度」などで、石油から作られたまっさらなPET(バージンPETと呼びます)に匹敵する性能がなかなか得られませんでした。さらに商品にくっつく面である粘着剤との相性にも気を配らなくてはいけません。シールやラベルの構成を考えると、越えなくてはいけないハードルは高かったんです。
それでも地球環境のことを考えると、何とかしなくてはという強い想いのもと、シールやラベルとして使用するために必要となるさまざまな性能をクリアし、いろんなところに貼ることができる粘着剤を組み合わせた透明素材「カイナスシリーズ〈KP5000〉」*1ができ上がりました。特に意匠性や風合いなどが求められる化粧品や日用品、文具・事務用品などの表示シールとして使われています。バージンPETを使わなくても、これまでと遜色ないシールやラベルを作ることができる・・・そしてそれが、石油という「枯渇資源」の利用を少しでも節約するという環境配慮にもつながっています。

再生PETラベルができるまで

*使用済みPETボトルをリサイクルする方法の一つ。 十分に高い品質を持つ衛生的なPET樹脂を生成することができます。

また、このフィルムを使って粘着剤を変更することで、「貼られている時はしっかりと。剥がす時はすっきりと」・・・例えば店頭商品に貼付されている販促用アイキャッチシール。貼るだけではなく、きれいに剥がせることで商品容器の再利用も可能にする粘着素材「REPOPシリーズ〈RE5054〉」*2も生まれました。「いろんなところに貼られる」ということを考えると、これってすごい技術です。商品容器が再利用できるということは、その分新しい容器を作る必要がないということです。これも枯渇資源利用の節約に一役買っているのではないでしょうか。

再剥離ラベル

シールやラベルって、でき上がった1枚を見るとすごく薄く小さなものですが、実は貼られている商品にも負けない技術が詰まっています。これからも環境に配慮した考え方と想いを、その小さな素材に注ぎ込んでいきたいと思います。

〈製品紹介〉
*1:「リンテック カイナスシリーズ〈KP5000〉」https://www.livasta-labels.com/products/kp.html
*2:「リンテック REPOPシリーズ〈RE5054〉」 https://www.livasta-labels.com/products/repop_strong.html

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