はじめに
古来より食肉の副産物として人々の暮らしに根差し、愛用されてきた革製品には、その耐久性、独特な質感から、色々な用途が存在します。使えば使うほど風合いに魅力が増す天然皮革は、その種類やグレードもさまざまで、好みのものを選ぶ楽しさがあります。近年では、サステイナブルで環境に配慮した植物由来のヴィーガンレザーも存在感を増しています。
一方、低コストで量産性に優れた石油由来の合成皮革や人工皮革も、抗菌・防カビや防水といった付加機能を持たせた製品が特定の市場に展開されるなど、素材やニーズも多様化し、今後もますます生産量の増加が見込まれています。
多様化のトレンドは、ファッション・アパレルやインテリア、自動車の内装などの分野におけるデザインのあり方にも影響を与えています。急速な社会の情報化、ソーシャルネットワークの浸透による人々の生活スタイルや趣味・趣向の変化は、スタイルやデザインの多様化を促し、商品の少量多品種化につながっています。モダンでスタイリッシュな革製品を扱うハイブランドは、これまで均一的なモチーフを使用してさまざまな商品を展開する傾向にありましたが、昨今では遊び心のあるユニークなデザインを採用したり、著名なデザイナーやアーティストとコラボレーションした特別な商品をラインナップすることが増えています。
出典:AIKO FUKUDA ILLUSTRATION
この流れを支える要素のひとつに、急速に技術が発達したデジタル印刷による加飾の存在があります。スクリーン印刷などに代表される従来の「版」を用いた印刷手法と比べ、デジタル印刷は、より効率的で短納期かつ低コストに運用できるため、商品にバリエーションを持たせる加飾が以前よりも容易になりました。TRANSPARENCY MARKET RESEARCH社によると、2020年には250億円の市場規模を誇る皮革の加飾分野は、2031年までに年平均成長率6%で推移し、500億円規模に到達すると予測されています。
また、近年盛り上がりを見せているのが、革のアクセサリーやスマートフォンケース、財布や文具などの小物を中心としたパーソナライズです。高級感のある革製品は、大切な人へのギフトや自分へのご褒美にうってつけです。特別感のある商品にオリジナリティあふれるデザインを加えることで、ソーシャルメディアで共有しがいのある、ワンランク価値の高いギフトに仕立てることができます。
皮革製品への
デジタル印刷事例
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スマートフォンケース
(出典:有限会社シーガル) -
シューズ
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自動車シート
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鞄
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トランク
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文具
(出典:AIKO FUKUDA ILLUSTRATION) -
家具
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小物
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ベルト
皮革製品のデジタル加飾
デザイン、用途、素材のバリエーションが多岐に渡る皮革製品への加飾手法として普及が進んでいるのが、デジタルインクジェット印刷です。その手法はいくつかに分類されます。
市場で今ポピュラーになっているのは、革にダイレクトに印刷を行うことができるUV硬化型インクを使用したインクジェットプリンターです。UVインクは、さまざまな素材への印刷が可能で、多くの産業用途の印刷シーンで使用されています。大きな特長としては、スポットニスや厚盛りなどの特殊効果を施すことができる点が挙げられます。UVインクの組成はさまざまで、皮革製品に使用する場合は、素材にしなやかに追従し、クラックと呼ばれる割れが生じにくいものを選択します。
また、完成品にダイレクト印刷ができるフラットベッドタイプのインクジェットプリンターは、オンデマンド対応がしやすいため、在庫を気にせずサービスが提供できることから、パーソナライズ用途で広く使用されています。
パーソナライズの加飾プロセス
一方、低溶剤インクを使用したロールtoロールタイプのインクジェットプリンターを使う手法も存在します。専用の特殊な転写紙に印刷をし、熱をかけてなめし加工済みの下地(クラスト)にグラフィックパターンを転写するタンナー向けの加飾ソリューションです。革本来の風合いを損なわずに高品質に仕上げることができます。
種別 | プリンター | インク | プロセス | 特徴 |
革へのダイレクト印刷 | フラットベッド式 | UV硬化型 | 革をフラットベッド搬送機に配置し、ダイレクトにインクジェット印刷を施す。 | 天然皮革や合成皮革に対応。完成品にも印刷できるため、汎用性が高い。 |
ベルト搬送 (ハイブリッド)式 |
UV硬化型 水性 |
革をベルト搬送機に配置し、ダイレクトにインクジェット印刷を施す。 | 天然皮革や合成皮革に対応。完成品への印刷には向かない。 | |
最終製品への ダイレクト印刷 |
フラットベッド式 | UV硬化型 | 皮革製品の完成品を設置治具を使用してテーブル上に固定し、ダイレクトにインクジェットプリントを施す。 | 天然皮革や合成皮革に対応。少量多品種生産に容易に対応できるため、パーソナライズサービスに最適。 |
フィルム転写 | ロール to ロール式 | 低溶剤 | 特殊な皮革専用の転写紙にインクジェット印刷を施し、熱転写機を使用して下地剤を塗布したなめし加工済みクラストに圧着する。圧着後、耐久性向上用の薬剤を塗布する。 | 天然皮革向け。自然な風合いを保ち、高品質な仕上がり。専門的な前後処理が求められる、タンナー向けのプロセス。 |
デジタル印刷のメリット
多品種少量生産向きのデジタル印刷は、皮革製品の加飾において数々のメリットを生み出します。
皮革製品メーカーのメリット
- 必要な時に必要な数だけ加飾できるので、在庫過多による 廃棄ロスを最小限にとどめ、サプライチェーンの最適化を 実現。
- オリジナルデザインの商品を展開しやすい。
- お客様一人ひとりに向けたパーソナライズサービスが展開できる。
- 急な仕様変更やデザイン変更も短いリードタイムで反映。
オリジナルグッズ製造業者のメリット
- オリジナルデザインを施した革製品をラインナップできる。
- 必要な時に必要な数だけ加飾できるので、在庫過多による廃棄ロスを最小限にとどめ、サプライチェーンの最適化を実現。
- 内製化することで、外注に比べ低コストかつ短納期なグッズ製作対応が可能に。
タンナーのメリット
- 従来の印刷に比べ、オンデマンド対応に優れているため、転写用のフィルムをパターンごとにたくさん在庫する必要がなくなる。
- 多種多様なデザインをラインナップできる。